





カランカラン
店のドアに見知った人影が現れて私は腰を上げた。
空のグラスを置いて席を移動して、いつもの席に座る。
「ご注文お伺いしますね~」とすかさず店長。
「じゃあ、オレもビールにしようかな。」
こいつ、ちゃっかり私が空にしたグラスを見ていたらしい。
「私はディアブロで」
悪魔という意味の「ディアブロ」は、テキーラベースのカクテルだ。
私にしては天使みたいに甘いカクテルなんだけど、ビール一杯が定量のやつにとっては確かに悪魔。
テキーラにカシス、レモンとジンジャーエール。
さわやかな飲み口だけど、後からテキーラが効いてくるのだ。
いつもの席は、case caféの本棚の前にあって、
やつとやつの背にある本は見慣れた一つの景色みたいなもの。
馴染みのカフェ、吸いなれた空気、慣れ親しんだ顔。
ここでやつとご飯を食べながらお酒を呑むのは至福の時間だったりする。
もともと色白のやつの顔は今日も真っ赤になっている。
グラスを見るとまだ半分しか空いていない。
酔っ払ったやつの顔の色は、やつの斜め後ろにある本棚の本の色にそっくりだ、いつも思う。
それにしても、本棚の本は誰が読むんだろ。
表紙を見る限り、洋書みたいだけれど。
「それ、オレも呑んでみようかな。」
それ、とやつは私のグラスを見て言う。
「えぇ?やめときなよ。顔、後ろの本とおんなじなんだから。」
やつは振り返って本を見る。
「こんな赤くねぇよぉ!」
顔を更に赤くさせていうのがおかしくて思わず笑ってしまう。
ムキになって反論するところが妙に可愛い。
そんなこと言ったらきっと拗ねるんだろな、と想像してまた笑う。
幸せ。
ここでやつと過ごす、他愛のないステキな時間。
お腹が一杯になって、ちょっとアルコールも回って、目がとろん、とする。
明日も仕事頑張らなきゃね。
自分に言い聞かせるように心の中で呟き、私達は席を立った。
「明日のランチ何?」
帰り際、厨房でフライパンを振るジノ君に聞くと、
「あー、多分鶏肉あたりをどうにかします。」
と適当な答えが返ってきた。