





このペースで返答しているんだ。常連さんだというのはしっくり来る。
でも、隣の女の人は、あの本ぱっと見ても意味が分からない、
専門的な知識がないと全く面白くもなんともない本を読むだろうか。
僕の心臓はさっきからバクバクいいっぱなしだ。
そんな気持ちとはウラハラに、隣の女の人はカウンター内の店長と新作スイーツについて談笑している。
「今回の新作はね、『グリオットチョコケーキ』なの!」
とテンションの高い店長。
「グリオット?て何?」
きょとん、とした声で女の人は聞き返す。
「グリオット、とはさくらんぼのことでーす。
今回のケーキのイメージは、内に秘めた情熱!…みたいな感じ?
ずっしりとしたチョコケーキの中に、ヤツが潜んでいるのよ。」
フフフ、とたくらみ顔で店長さんが笑う。…少し、こわい。
下準備:さくらんぼをブランデーに漬ける
1. まず、チョコレートにバターを入れて電子レンジで溶かします。
2. そこに少し温めた生クリームを入れ、泡立て器でゆっくりかき混ぜます。
さらに、卵黄とココアと薄力粉を加え、混ぜ合わせます
3. その間に卵白にグラニュー糖を加えながら6分立てのメレンゲを作ります。
4. メレンゲを2に、1/3だけ加え、泡立て器でしっかり馴染ませます
5. 残りのメレンゲを2回に分けて加え、ゴムベラでボールの底からすくうように混ぜ合わせます
6. ブランデーにつけておいた(グリオット)さくらんぼを入れ、
150度のオーブンで30分、湯せんで焼いて完成
ピピピピピ
突然鳴った音に、僕はちょっとびっくりした。周りを見るとびっくりしている人なんていない。
僕は少し恥ずかしくなってうつむいた。
店長さんはオーブンからケーキを取り出し、スティック状に手際よくカットしていく。
隣の女の人は「へー」と感心しながら、その作業を見つめていた。
長い黒髪と通った鼻筋。
この人だったらいいのに・・・と思ってしまった。
彼女はカットしたてのケーキを受け取り、そのまま手づかみでパクリ。
「甘酸っぱーい!」
彼女は目を丸くしている。
「これ、中にさくらんぼあること知らなかったら驚くね。
あること知っている私でもびっくりしちゃったもん。」
店長はしたり顔でニシシ、と笑う。
「あ、1個食べます?」
突然、声をかけられて、僕は頭の中が真っ白になった。
え?
「あ、い、いいんですか?」
動揺しているのがバレバレだ。かっこわるい。
いいよいいよ、と店長と彼女が揃って言う。
勧められた新作ケーキを僕も同じくパクリと一口。
(わ!)
さくらんぼが舌に転がった途端、口の中に酸味が広がった。
甘ったるいチョコレートケーキの中に潜んだ、強いブランデーのにおいがする酸味がきいたさくらんぼ。
『内に秘めた情熱!…みたいな感じ?』
店長の言葉を不意に思い出す。
「ほんと、男には優しいねえ、楠木さん」
「そんなことないよー」
二人は談笑を続けている。
「楠木」という名前が僕の記憶メモリーに蓄積された