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「このページなら私もこれ」 「彼のシンプルさが好き」
僕は息を止めた。
返事があるとは思ってもみなかったし、
自分が丸をつけて指した建築物の設計者は、とかく奇抜さに目が行きがちなのだが、
彼の良さはシンプルな建築物の設計にあると思っていたからだ。
その思いを理解してくれる人が僕の周りにはいなかった。
急に僕はこのメッセージの主が気になりだした。
「じゃあこれも好きじゃないですか?」
その問いには、シンプルに
「YES!」
と書かれていた。
何だか嬉しくなって、思わず顔が緩む。
ふと視線を下げると、まだメッセージには続きがあった。
「5ページ先へ」
なんだろう、と僕はページをめくった。
先が全く読めなくて、わくわくしてしまう。
こういうのはどれくらいぶりだろう。
5ページ先を開く。
「こんな家に住みたい」
よく見ると、開いたページ一面に描かれた緻密な図面に更に書き足された線。
細部にわたって書かれた繊細なその線を僕は一つ一つ丁寧に見た。
クリアで迷いのない真っ直ぐな線。
けれどその線はとても細くて…そのメッセージの主の性格が出ているような気がした。
思い浮かんだメッセージの主のシルエット。
(妄想だ)
何考えているんだ、と僕は苦笑する。
ただ、その真っ直ぐなラインが描く図面は、確かに僕の好みだった。
そういう感覚が似ているのかもしれない。
僕たちは似ているのかもしれない。
…こんな思いは錯覚なんだろうか?
僕は考えあぐね、勢いに任せてこう書いてみた。
「僕が建てましょうか?」
顔も知らない、男だか女だかもわからない人に大胆なことを書いたものだ、
と家に帰ってから若干の後悔をした。
(とは言え、知らないから書けたのだろう。普段の僕ならこんなことはしない)
果たしてどんな回答が返ってくるのだろう。
気になってまたこの店に来てしまった。
それが、今。 5度目の来店なのだ。
カウンターの席で、赤い本にまつわる一連の出来事を一通り思い返した。
ただ、いつもの席には既に人が座っていて、
―――しかも、ある筈の場所にあの本がない。